黒猫の見る夢 if 第17話 |
ブリタニアの誇るナイトオブラウンズ。 第6席と第7席を与えられた者がKMFに騎乗し、日本へ接近していた。 進行方向から目的地がトウキョウ租界だとし、藤堂を中心とした迎撃部隊と、カレンを中心とした遊撃部隊も含めすべて配置を終え、いつでも迎撃できる体制となった頃、ようやくランスロット、そしてモルドレットとの通信回線が開いた。 回線が開くと同時に2騎は東京湾上空で停止した。 これ以上進行してきた場合、迎撃に入ることになるだろうと、東京湾沿岸に待機しているカレンは知らず固唾を飲む。 指令室の画面に映し出されたのは、ラウンズの制服ではなく、私服で騎乗している二人。その姿に、指令室内はざわめき、ルルーシュも仮面の下で眉を寄せた。 『神聖ブリタニア帝国ナイトオブラウンズ・ナイトオブセブン、枢木スザクです。黒の騎士団と戦うつもりはありません。ゼロと話をするために来ました。着陸許可を願います』 『神聖ブリタニア帝国ナイトオブラウンズ・ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム。このままで駄目なら、武装は海に捨てる。だから、降りていい?』 小首を傾げたアーニャと、真剣な表情のスザク。 「ゼロ、どうする?」 画面に小さなウインドウが開き、藤堂がそう尋ねた。 元々、C.C.のあの放送の影響で、皇カグヤを始めとする日本人が、枢木スザクはブリタニアの内部に入り込み、日本を取り戻そうとしていたのだ、やり方は違えどその志は我々と同じ。このままでは皇帝の実験材料として殺されてしまう恐れがあるため、救出をするべきだと、ゼロに進言していた。黒の騎士団員はそのことを噂レベルではあるが知っており、私服でランスロットに騎乗しここへやってきたスザクに対し、皇帝を見限ってこちらに来たんだという好意的な声がちらほら聞こえてきた。 果たしてそうなのだろうか? 確かに、このまま皇帝の元にいても、ナイトオブワンになることは不可能。 ならばブリタニアの内部にいる必要はない。 スザクの説明はそれでつくかもしれないが、アーニャに関しては別だ。 マリアンヌのギアスから解放されたことで、記憶が途切れることはもう無いが、こちらが関与しているのはその程度だ。敵の本拠地に来る理由にはならない。 二人を見つめ、どうすべきか思案しているゼロの様子を伺った後、C.C.は口を開いた。 「許可をしてやれ、ゼロ」 「ブリタニア側の罠の可能性は否定できない」 「問題はないだろう。着陸と同時にKMFから降ろし、2騎ともこちらの手にすればいい。内乱が起きかけているブリタニアが、そちらを放置しラウンズを二人も派遣するとは思えないし、二人に自爆覚悟で特攻しろと命じたとも思えない」 それに。と、C.C.は指令室の扉へ視線を向けた。そこには画面に映し出された従兄の無事な姿に安堵の笑みを浮かべているカグヤがいた。 カレン率いる零番隊が先導し、藤堂たちもいつでも動けるよう陣形を組んだその中心に、ランスロットとモルドレッドは着陸した。すぐにハッチが開けられ、両手を上にあげた状態でスザクとアーニャが姿を現し、そのまま地上へと降りてきた。 「ラクシャータ、ランスロットとモルドレッドを任せる」 『分解していいのかしら?』 「すぐに組み立てられるのであれば、許可しよう」 『あら、面倒ね。でもいいわぁ、了解』 東京湾付近に待機していたラクシャータは、部下を連れ2騎のもとへ向かった。 スザクとアーニャはそのまま車に乗せられ、政庁へ搬送された。 政庁正面に卸された二人は両手を挙げた状態のまま建物内へ入り、カレンと零番隊、そして藤堂と四聖剣に囲まれる形でゼロの前に足を進めた。 これからどのような扱いをされるか解らないというのに、スザクとアーニャの顔に不安や恐怖はない。 「ナイトオブラウンズが一体私にどのようなお話が?」 後ろにジェレミアとC.C.を従えたゼロはそう二人に訪ねた。 「ゼロ、私も実験体だった。シャルル皇帝の」 その言葉に、あたりはざわめいた。 「私は自分の記憶が信じられない。信じられるのは記録だけ。気が付いたらいつも知らない場所にいる。映像に残る私を見ても、私にはその記憶はない。あの放送のあった時もそう。私はスザクたちとゼロの演説を見ていた。でも、気が付いたらアリエスの離宮で倒れていた。私の傍にいたのはジェレミア。ナナリー様を連れ出すため来ていて、私たちは戦闘をしていた。でも、ジェレミアと戦った記憶も、無い。そんな私にジェレミアは言った。もう大丈夫だと。皇帝の施した物は今取り払おう、だからもう自由だと。そして私はすべて思い出した。あの日、マリアンヌさまが殺されたあの場所に、私も居たことを。私はその記憶を消され、皇帝の実験体となり、ずっとこの体を操られていた。操られていた時のことも、全部思い出した。私は私を取り戻せた。その話をスザクにした。そしたら言ったの。皇帝の実験を無効化する方法をゼロは手に入れたんだって。だから私は来た。私はあなたの力になりたい」 アーニャの語る内容は、ゼロもジェレミアもC.C.から聞いていた。 マリアンヌ殺害時の唯一の目撃者だった彼女は、マリアンヌのギアスで時折体を乗っ取られていた。ラウンズになったのもマリアンヌの意思で、アーニャは気が付いたら士官学校に入学させられ、KMFの訓練をさせられ、気がつけばラウンズとなっていた。 叙任式の記憶も無く、結果だけをいつも突きつけられていたのだ。 士官学校やラウンズ任命の話など、C.C.はマリアンヌが楽しげに話すのをいつも聞いていた。乗っ取られている側の気持ちなど考えもせず、本当に楽しそうに、自慢げに。 「アーニャ・アールストレイム。皇帝の実験から解き放たれた今、自由となったというのに、戦場に身を置くというのか?」 「うん、自由。だから自分の意思で戦いたい。ありがとう、ゼロ。私はわたしに戻れた。それは貴方のおかげ」 まだぎこちなさはあるが、それでも顔に笑みを乗せ、少女はそう答えた。 「・・・そうか。皇帝の力を打ち消したのはジェレミアだ。感謝ならジェレミアに」 「ありがとうジェレミア」 「いいえ、感謝はゼロ様に。私も皇帝の実験体として機械に繋がれていた所をゼロ様に救われたのだ。この身の大半を失ってしまったが、その代わりに皇帝の実験の効果を打ち消す力を手に入れただけにすぎない。ゼロ様がいなければ、私も今この場には居ないからな」 ゼロの後ろに控えていたジェレミアは、そう口にした。 「うん、二人ともありがとう」 アーニャは二人に向かい、精いっぱいの笑顔を向けた。 そのあと、表情を再び消したアーニャは「笑顔、難しい。ちゃんと笑えてる?」とスザクに言い、スザクは「大丈夫、ちゃんと笑えてるよ?」と、アーニャのその頭をなでた。 見ると、そんな二人の姿にカレンは目に涙をため「あの皇帝、絶対に許せない」と、つぶやいていた。 感情を無くすほどの仕打ちを、しかもマリアンヌ皇妃暗殺時からということは8年前からこの少女に行っていたのだ。そしてC.C.が言ったように純血派として皇族に仕えていたジェレミア、そして皇族であるマリアンヌの子供さえ実験材料とした皇帝に対する嫌悪と怒りを、ここにいた者は抱いた。 そして、次の実験体として傍に置かれていたであろうスザクへ視線が集まった。 「スザク、本当なの?日本を取り戻すためナイトオブラウンズになったって話」 「そのつもりだったよ、カレン。ナイトオブワンになって、日本を直轄領にすることが目的だった」 「馬鹿よあんた!出来るわけないじゃない!」 「そうだね、でも可能性はゼロじゃなかったから。でも、あの皇帝はナイトオブワンにバルトシュタイン卿以外置かない事を今は知っているから、皇帝が変わらない限り無理だってわかってるよ」 「もしそれが成功したとしても、そんな方法で戻ってきた日本なんて」 「それでも僕は、日本を返したかったんだ。日本が奪われたのは、僕のせいだから」 スザクは表情こそ笑顔ではあったが、その瞳に影を落としながらそう口にした。 「え?何それ?何の話?」 カレンは、驚きそう質問した。口を閉ざしたスザクに「全部話しなさいよ!」と、詰め寄ると、スザクがその笑みを自虐的なものに変えた。それを目にしたカレンが思わず足を止めたその時、スザクの頭に大きな手が乗り、若干乱暴な手つきでその頭をなでた。 「紅月。人には話せることと、話せないことというものがある。全部話せなど、何も知らない者が口にすべき言葉ではない」 その言葉にカレンは眉を寄せたまま口を閉ざし、スザクは目を見開いて藤堂を見た。 「・・・藤堂先生」 「スザク君、あれは君のせいではない。あの日なぜ私があの場所にいたか考えたことはあるか?」 「・・・父に呼ばれたのでは?」 「違う。君が行ったことは、本来であれば私が行うはずだったのだ」 「え!?」 スザクはその目が零れ落ちそうなほど大きく見開き、藤堂を見つめた。 「だったからこそ、何も問題なく事が運んだ」 「え、そんな・・・!そんなはずない!先生、どうしてそんな嘘を!」 枢木ゲンブの殺害。 10歳のスザクが友を守るため、そして戦争を回避するため行った罪。 父殺し。 あんな方法を取ってしまったことで、日本人が苦しんだ。 それをかつての師は否定したが、そんな話、信じられるものではない。 「真実だ、枢木。その話は私も桐原から聞いている。ブラックリベリオンの前日にな」 敵であったのだから、それを伝えることは出来なかった。 猫となってからはそれどころではなかった。 だからルルーシュは今ここでゼロとしてその事実を伝えた。 |